社会人しながら慶應通信文学部

とりりんがるになりたい

ユートロニカのこちら側

ユートロニカのこちら側 読了

 

全体的な世界観は今から少しだけ未来な雰囲気。「情報を売る」ことで生活を面倒みてもらえる試験的な街ですごす人とそれをとりまく人たちの話。オムニバス形式。

 

こっからネタバレ含む感想

 

タイトルにもあるユートロニカのこちら側についての説明が最後の章でなされる。

「人間は次第に無意識状態に回帰していて、なおかつそれは進化論的に正常なことだ」

「人間による機械のプログラミングは、機械が人間をリプログラミングする自己循環サークル一部」引用

まず伊藤計画の「ハーモニー」と同じ方向性だと考えていいとおもう。

同期することで向こう側にいけるってことだけれど。凪いだ感情なのか、悟りに近いのか。自我の延長に関することなのか。

鈍感であることは幸福に繋がるのかと言えばたしかにそうなのかもしれない。しかし、鈍感と悟りは異なるのだから、向こう側はよく見えない。そもそも自我の形成とは?という問いにもまだ答えられていない。自我の拡張を共有することで向こう側にいけるのであれば現代人はその先へ今までで一番近づいていることになるだろう。

しかしサーキュレーションを目的とした活動は緩やかな後退と退廃へ繋がるのではないかとも愚考する。なんというか退廃的というか、破滅願望というか。この場合の最終到着地点はきっと滅亡?この破滅に美しさを感じるからなのか、だから理想都市の形はいつも美しく形容されるのだろう。だから天国はいつも美しいのだろう。デカダンス

とめどなく溢れてこぼれおちる思考はそこに善悪をみているのではなく、ただそのあり様について考察するだけ。

 

内省にむいている本。一人で考え込みたいときにおすすめする。